「老後資金、いくら必要ですか?」
ファイナンシャルプランナーとして、何度この質問を受けてきたかわかりません。
平均寿命、生活費、医療費、年金受給額──。
数字を並べてシミュレーションし、必要額を試算する。グラフにして見える化する。
これは確かに大切な作業で、相談を受けるときの大事な入口になります。
でも最近、心のどこかでこんな問いが浮かぶようになりました。
「老後資金って、安心のため?それとも、自由のため?」
老後資金=守りのイメージ?
「老後資金」という言葉には、どこか守りのニュアンスがついて回ります。
「足りなかったらどうしよう」
「病気になったら困る」
そんな不安を埋めるための備え。
つまり安心を準備するためのお金、というイメージです。
でも一方で、
「好きな場所に住んでみたい」
「働かずに好きな創作活動に打ち込みたい」
「孫と海外旅行に行きたい」
そんな夢や希望を叶えるための資金でもあるはず。
安心と自由。
この二つの言葉の間には、見えないけれど確かな“問い”が横たわっています。
「不安しかないんです」──40代会社員夫婦の相談
先日、40代後半のご夫婦から老後資金の相談を受けました。
開口一番に出てきた言葉は──
「老後を考えると、不安しかないんです」
お二人とも落ち着いた表情をされていましたが、話としては不安しかないという感じでした。
詳しく伺うと、不安の理由はいくつかありました。
- 子どもの大学費用がこれから本格的にかかる
- 住宅ローンの返済が70歳まで続く
- 将来の親の介護費用も気がかり
- 自分たちの老後資金の積み立てが思うようにできていない
「このままじゃ、老後が怖いです」
そう口にされた言葉には、安心を求める切実さがありました。
そこで、一度、老後生活を見える化をしてみました。
退職金制度や企業型DC(確定拠出年金)、これまでの貯蓄を整理し、再雇用が終わるころの65歳時点での資産をシミュレーションをします。
資産形成をしていることもあり、教育費とローン返済を考慮しても、約2,000万円は残せる見込みとなったのです。
「そんなに残るんですか……?」
お二人の表情がふっと明るく変わりました。
安心の先に、ほんの少し自由の可能性が見えた瞬間です。
私はその変化を目の前で見て、改めて「数字の力」と「問いの力」を感じたのです。

安心のための老後資金
老後資金を安心のためと捉えるとき、ポイントは「不安の回避」です。
- 病気や介護への備え
- 収入減少に備えた生活費の確保
- 予期せぬ支出への対応力
この視点では、必要額を「足りるかどうか」で判断します。
FPとしても、リスクヘッジや取り崩し計画を丁寧に設計することが大切になります。
ただし、安心だけを目的にしてしまうと、老後は「耐える時間」になってしまうことがあります。
「減らさないようにしよう」
「使わないようにしよう」
そんな意識ばかりになると、人生の選択肢はどんどん狭くなってしまうのです。
自由のための老後資金
一方、自由のための老後資金は、「何をしたいか」に焦点が当たります。
- 住みたい場所に移住する
- 趣味や創作活動に没頭する
- 家族や友人との時間を豊かに過ごす
この視点では、お金は「選択肢を広げるための道具」になります。
FPとしても、資産の数字だけでなく、価値観や人生の優先順位を一緒に整理することが重要になります。
ただし、
自由を語るには、やはり最低限の安心が必要です。
不安が強すぎると、自由の話はどうしても、空想、ただの理想に聞こえてしまうからです。
だからこそ、安心と自由は対立するものではなく、実は連続しているものなのだと思います。

問いを残すFPでありたい
「老後資金は、安心のためですか?それとも、自由のためですか?」
この問いに、正解はありません。
人によって違うし、人生のフェーズによっても変わります。
でも、この問いを立ててみることで、見えてくる景色があります。
「お金が不安」から「お金をどう活かすか」へ。
その視点の変化が、人生を豊かにしていくのだと思います。
FPとして、ただ数字を提示するだけではなく、問いを残す存在でありたいと考えています。
「本当に欲しいのは、安心ですか?それとも、自由ですか?」
そう問いかける時間こそが、相談の価値だと感じています。
まとめ
あなたにとって、老後資金は何のために必要ですか?
安心のために備えるのも、自由のために使うのも、どちらも正解。
でも、その間にある問いを一緒に見つけることで、老後の風景はきっと変わっていきます。
Wrote this article この記事を書いた人
福田 智司
▶独立系ファイナンシャルプランナーとして、相談業務、セミナー講師などで活動しています。 ▶FBCラジオ ラジタス 第一木曜日 10:50~ 「FPふくちゃんのお金に関するエトセトラ」レギュラー出演中 福井で唯一?のラジオFPです ▶FPでIFAというポジションを活かした相談が得意 節約だけが家計見直しじゃない!を念頭に置いた相談を心掛けています。 ▶法人向けに企業型確定拠出年金の導入サポートを推進しております