親には言えた。でも、兄弟姉妹には言えなかった。相続の話。

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親に「もしものとき、どうしたい?」と聞くのは、まあまあ勇気がいります。

でも、いざ向き合ってみると、案外話せてしまうものだと思います。

施設に入りたいのか、家で過ごしたいのか。お墓はどうするのか。少しずつ財産を整理しておいたほうがいいのか。最初は気まずくても、「お父さん、お母さんのことが心配だから」という気持ちが伝われば、親はちゃんと応えてくれます。

問題はその先にあるのでは、と思っています。

親と決めたことを、兄や妹に話そうとした瞬間、なぜか、言葉が止まって出てこない。

「なんで勝手に決めたの」と思われないだろうか。「お前が財産を狙ってるんじゃないか」と勘ぐられないだろうか。そんな考えが頭をよぎって、結局、何も言えないまま時間だけが過ぎていく。

相続の準備でつまずくのは、実は「親との会話」ではないのかもしれません。

みんなが見ているのは、縦の関係ばかり

書店に行けば、相続の本がずらりと並んでいます。

「親にエンディングノートを書いてもらおう」「親の本音を聞き出す方法」「生前贈与の切り出し方」――。どれも大切なテーマですが、よく見ると、ほとんどが親と子の「縦の関係」を扱っています。

たしかに、親が何も語らないまま旅立ってしまうケースは少なくありません。だから「親とどう話すか」が重視されるのは、自然なことだと思います。

ただ、私が相談の現場で見てきた景色は、少し違いました。

親子は、案外、話せているのです。

つまずくのは、もっと別の場所。子ども同士――兄弟姉妹の「横の関係」でした。

「全員が得する話」のはずなのに

ある相談を、本人が特定されない形に変えてお話しします。

実家とアパート、駐車場などを持つご家庭で、長男が親と同居しながら、その管理を手伝っていました。資産の多くは不動産で、手元の現金は思ったより多くない。このままでは、いざ相続が起きたとき、納税のための現金が足りなくなるかもしれない。

そこで長男は、親が元気なうちに不動産を少し整理して、納税にも備えておきたいと考えました。家族の誰が損をするわけでもない、むしろ全員のための準備です。

ところが、別世帯の弟が、なぜか首を縦に振らない。

反対する明確な理由は、特にないようでした。それでも「進めていいよ」とは言わない。長男が説明すればするほど、空気は重くなっていきました。

後でわかったのは、お母さんが、弟にだけ何かと愚痴をこぼしていたこと。長男からは見えないところで、母と弟のあいだに、細い感情のパイプが通っていたのです。

数字で見れば、整理を進めたほうが家族全体にとって合理的でした。でも、人は数字だけでは動きません。とくに兄弟姉妹のあいだでは。

親子には「上下」があり、兄弟にはない

なぜ、横の関係はこんなに難しいのでしょうか。

ひとつには、親子には自然な上下関係があるからだと考えられます。「親がそう言うなら」で、子は一歩引くことができる。最後は親の意思が、まとめ役になってくれます。

ところが兄弟姉妹には、その上下がありません。

立場は対等。だからこそ、一人が「納得できない」と感じたら、話はそこで止まってしまう。そして止める理由は、たいてい損得ではなく、もっと感情の話だったりします。しかも昔からの。

「あのとき、親に可愛がられていたのは兄さんだった」

「私はずっと実家のことを気にかけてきたのに、誰もわかってくれない」

子どものころから積もってきた小さなしこりが、お金という具体的な形になったとき、一気に噴き出す。相続の話題は、その引き金を引いてしまうことがあるのです。

そしてもうひとつ、見落とされがちな事情があります。現状の家計の話です。

相続を考え始めるのは、たいてい親が70代に差しかかったころ。そのとき子ども世代は、40代から50代です。

この年代は、子ども(親から見れば孫)の教育費が、ちょうどピークを迎えている可能性があります。大学、専門学校に進学すれば、当然授業料が必要ですし、仕送りもとなればもっと負担が出てきます。家計にいちばん余裕がない時期と言ってもいいかもしれません。

すると、どうなるでしょうか。

頭では「相続なんて、まだずっと先の話」とわかっている。それでも、つい口を挟みたくなる。「できれば現金で残してほしい」「不動産より、分けやすい形のほうが」

これは、強欲とは違うと思うのです。いま、目の前の生活を回すのに精一杯だからこそ、出てくる本音なのだろうと。誰かが悪いわけではありません。それぞれの「いまの事情」が、それぞれに「正しい」。だからこそ、噛み合わない場面が出てくる。

先ほどの弟さんが首を縦に振らなかったのも、もしかしたら、こうした言葉にしづらい事情があったのかもしれません。

ちなみに、こうした場面で「反対している人を外して、法的に進められる方法」が存在することもあります。残りの家族だけで手続きを完結させる、といったやり方も、あるにはあります。

でも、私はそういう提案を、できれば避けたいと思っています。

なぜなら、それは多くの場合、揉め事を「先送り」にしているだけだからです。いま家族の一人を置き去りにして進めても、相続が実際に起きたとき、もっと大きなしこりになって戻ってくる。誰も、得をしません。親がいなくなってから揉めるより、今揉める方がある意味健全なのでは、と思っています。

だからこそ、「元気なうち」に横をつなぐ

では、どうすればいいのか。

正解がひとつに決まる話ではありませんが、現場の感覚として、いくつか考えられることをお伝えします。

① 親が元気なうちに、「親を介して」横をつなぐ。

兄弟だけで集まると、どうしても昔の力関係が顔を出します。でも、親が「みんなで一度、話をしておきたい」と声をかける形なら、角が立ちにくい。親という存在が元気なうちは、横の関係の、いちばんの接着剤になってくれます。

② 「決めること」より「同じ場で、同じ話を聞くこと」を先に。

いきなり「どう分けるか」を決めようとすると、身構えてしまいます。そうではなく、まずは全員が同じ情報を、同じ場で共有しておく。「うちの実家はこういう状況なんだ」と全員が知っているだけで、後の「聞いていない」「勝手に決めた」というすれ違いは、かなり減らせると考えられます。

③ 第三者を、あいだに置く。

家族だけだと、どうしても感情が先に立ちます。FPや司法書士のような、利害のない第三者が同席するだけで、「数字の話」と「気持ちの話」を切り分けやすくなる。言いにくいことを、代わりに言ってもらえる、という効果もあります。
お互いに直接言い合うより、FPである私のワンクッションで言いやすくなるのだと思います。

どれも、相続が起きてからでは間に合いません。全員が元気で話せるうちにしか、できないことばかりです。

まとめ

親に向き合えたあなたは、もう、いちばん難しい一歩を踏み出しています。

あとは、その勇気を、もう少しだけ横nお兄弟姉妹にも向けるだけです。

完璧に分け方を決める必要はありません。まずは、兄や妹と「同じテーブルにつく」こと。それだけで、未来のすれ違いは、ずいぶん変わってくるはずです。

「言えなかった」を、後悔にしないために

我慢して、見て見ぬふりをして、いつか来る「そのとき」に、揉めるだろうなと心配しながら過ごすのか。

それとも、いま、少しだけ気まずい会話をすることを選んで、家族みんなが安心できる未来を手に入れるのか。

どちらを選ぶかは、あなた次第です。

「うちの場合はどうなんだろう」「誰に、どう切り出せばいいかわからない」
そんなモヤモヤが少しでもあるなら、一度、整理してみませんか。何かを決める前の早い段階のご相談こそ、いちばん価値があると考えています。お気軽にご相談ください。

Wrote this article この記事を書いた人

福田 智司

▶独立系ファイナンシャルプランナーとして、相談業務、セミナー講師などで活動しています。 ▶FBCラジオ ラジタス 第一木曜日 10:50~ 「FPふくちゃんのお金に関するエトセトラ」レギュラー出演中 福井で唯一?のラジオFPです ▶FPでIFAというポジションを活かした相談が得意 節約だけが家計見直しじゃない!を念頭に置いた相談を心掛けています。 ▶法人向けに企業型確定拠出年金の導入サポートを推進しております

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